最高裁判所第二小法廷 昭和40年(行ツ)108号 判決
論旨は、上告人の本件登録実用新案の登録出願前すでにその考案が公然用いられていたか否かの争点に関し、審判手続における大江恒夫の証言にみられる考案は、実施不能のものでかつその実施の時期にも論理的齟齬あるものと論じ、前記証言に基づいて被上告人等の請求を認容した原審決および原審決の判断を相当とした原判決には、経験則に違反する事実認定あるものとし、また前記証言と内容を異にする同証人の原審における証言をなんら釈明を尽すことなく採用したうえ、これと他の証拠を併せて、審判手続において審査の対象とならなかつた新たな事実を認定した原判決を失当というのである。
しかし、前示審判手続における大江証人の証言は、必ずしも一概に所論のように断定しうるものではなく、審決取消訴訟の事実審たる原審においては、その審理は、単に原審決の法令違背の有無にとどまらず、広く審判手続における争点に関する事実関係に及び、当事者の新たな主張立証もその審理の対象となるものであるから(最高裁判所昭和三五年一二月二〇日第三小法廷判決、民集一四巻一四号三一〇三頁参照)、原判決がひとり審決の採用した証拠のみでなく、原審に現われた各証拠を総合して独自に事実を認定したとしても、これを違法と目することはできない。そして、原判決は、上告人の本件登録実用新案と同様の考案が、その出願前である昭和三一年六、七月頃か、おそくとも同年秋より以前に、被上告人株式会社オーエーの深江工場において公然行なわれていたことを認定したのであつて、その挙示する各証拠を総合すれば、そのような事実を決して認めえないものではない。論旨はひつきよう原審の専権に属する証拠の採否ないし事実の認定を非難するに帰しすべて採用しがたい。
論旨はさらに、被上告人等が公然用いられていたとする考案は、上告人の登録実用新案のそれと異なり、「ビニールパイプの製造中に空気を送入し先端を熔着して空気を密封する方法」を主張したものとし、かかる不合理な主張につき、原審裁判所がなんら釈明を求めることなく漫然その事実の主張を肯認したのは、釈明権不行使の違法にあたるといい、またこれにより本件登録実用新案と同じ考案の実施を認めたのは、当事者の申し立てない事項について判断した違法をおかしたものと非難する。
しかし、被上告人等は、上告人の本件登録実用新案は、その出願前公然実施されており、新規性を有せず、これを旧実用新案法三条一項一号該当と認めた原審決は正当として維持せらるべきものとして,請求棄却を申し立て、前示原判決の認定したところに該当する事実を主張したことは、原判決の事実摘示および本件訴訟記録に徴し十分認めうるところである。論旨は被上告人等の主張を正解しないものというのほかなく、採用できない。
(奥野、草鹿、城戸、石田各裁判官)